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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1199号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を福岡高等裁判所に差戻す。

理由

被告人福田福右衛門辯護人鶴田猛の上告趣意第一點、被告人中野荒一辯護人安田幹太の上告趣意第二點、並びに、同辯護人白川愼一の上告趣意について。

有毒飲食物等取締令は、昭和二一年六月一七日勅令第三二五號によって改正され、その翌日から右改正法が施行される迄は、故意犯だけを處罰していたものであるが、原判決が被告人両名の所爲として認定した事実は何れも右改正法施行前のものであるから、故意に出た所爲でなければ處罰できないものである。そして右改正前の右有毒飲食物等取締令第一條違反の罪が成立するためには、「メタノール又は四エチル鉛を含有する飲食物」であること又は、「メタノール」であることを認識して同條の禁止する行爲を行ったことを要し、これを認識しないで右禁止する行爲を行ったのでは前記の罪は成立しないのである。しかるに、原判決は「被告人福田及び同中野は、何れも判示品物がメタノールであるとのはっきりした認識はなかったが之を飲用に供すると身體に有害であるかも知れないと思ったにも拘らずいずれも飲用に供する目的で」之を所持し又は販賣した旨、説示しているのである。右説示では、被告人等は判示品物がメタノールであることは認識していなかったというに歸し、同取締令第一條違反の罪の構成要件である故意のあった事実の判示を欠くものといわなければならない。たゞ原判決には、「判示品物が之を飲用に供すると身體に有害であるかも知れないと思ったにも拘らず」と説示しているので、これを以って被告人にいわゆる未必の故意あるものと認定した趣旨であるかも知れないが、しかし飲用に供すると身體に有害であるかもしれないと思ったというだけでは、直ちに被告人等が判示品物はメタノールであるかも知れないと思ったものとはいえないから、本條違反の罪につきいわゆる未必の故意があったものということはできない。又原判決の事実摘示をその證據説示の部と相待って見ても、原判決が被告人等に判示品物がメタノールであることを認識し又はこれを未必的に認識しながら敢えて、判示行爲を爲したものと判示したものと認めることはできない。してみれば原判決が被告人等の所爲に對し、前記取締令第一條に故意に違反したものとして同令第四條第一項(原判決に同令第四條第一項前段とあるが改正前の同令第四條第一項には前段後段の區別はない)を適用したのは、罪とならない事実に、罰條を適用した違法があるか、又は、右罰條適用の前提をなす被告人等に故意があったか否かの事実を確定しない審理不盡の違法あるものであって、論旨は理由がある。原判決はこの點において破毀を免れない。(その他の判決理由は省略する。)

仍って、その餘の各辯護人の上告趣意に對する判斷を省略し、刑訴施行法第二條舊刑訴第四四七條第四四八條の二に從って主文の通り判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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